ワンちゃん、ネコちゃんも人と同様に乳腺腫瘍、いわゆる乳がんができることがあります。
動物病院で遭遇する腫瘍のなかで多い腫瘍の一つです。ひとえに乳腺腫瘍といっても、動物が違うことで良性や悪性の発生率、予後は変わってきます。そのため、基本的な治療は同じでも治療プランも考え方は少し変わってくるかと思います。
まず、乳腺腫瘍を理解する上で大切なのが乳腺の構造です。人とちがい、犬は左右5対(計10個)、猫は左右4対(計8個)あります。脇の下から、股の間まで広範囲の乳腺が存在しています。そのためメスの子で、お腹側にできたしこりでは考えたほうがいいかと思います。
わんちゃんの場合、以前より50%ルールというものが言われており、良性、悪性ともに50 %の確率で発生すると言われています。これは海外での報告のため、近年、国内では小型犬が多く良性のほうが多いとされています。だからと言って大丈夫というわけではないため、摘出後は病理検査で良性悪性の診断はしなくてはいけません。
ワンちゃんの乳がんで特に、悪い予後を示すのが炎症性乳がんというものがあります。本来は病理的な診断ではないのですが、あまりにも進行が早く、他の乳がんにはないような激しい痛みを伴うことから臨床的に昔から言われてきました。
この炎症性乳がんの特徴は、しこりというよりは板状に乳腺が腫れ、浮腫みや熱感、痛みなどの炎症兆候示します。炎症性乳がんは他の乳がんと違い、外科手術しても再発率が非常に高く、予後の悪い腫瘍です。
ワンちゃんで50%ルールとお話ししましたが、ネコちゃんではまったく確率が異なります。80%以上が悪性ということが報告されおり、経験上ではさらに高いと感じます。
そのためメスのネコちゃんで胸部から腹部にかけてしこりを見つけた場合は早急に検査し、摘出への手順をできる限り早く進めたほうがいいでしょう。
手術をしても、再発や転移をすでにしてしまっていることが多いと言われています。
治療
乳がんにかかわらず、がんの治療においては3本柱といわれております。
①内科療法=抗がん剤 ②外科手術 ③放射線療法になります。最近ではこれに加えて免疫療法というのも増えてきました。
乳がんでは抗がん剤で治癒は困難です。抗がん剤を使ったから乳がんがなくなったということはまずありません、あくまでも手術して摘出した後の補助療法という形になります。としかしネコちゃんは手術しても転移していることも多いため、術後の抗がん剤治療も考慮されます。放射線療法は乳がんの場合は行うことがありません。
そのため乳がんにおいては、まずは第一に②の外科手術、如何にして切除するかを考えます。早期発見、早期摘出です。がん、腫瘍が小さければ、その分がんが広がる前に摘出できることになります。
切除の方法はいくつかあります。
①腫瘤切除 ②部分切除 ③領域切除 ④片側全摘出 ⑤両側全摘出
になります。猫ちゃんはかなりの確率で悪性のため、基本的には④か⑤の全摘出を行います。①.②.③では再発する可能性が高いため推奨されません。
①腫瘤切除は、肉眼的に触れるしこりのみを切除する方法です。適応は良性腫瘍に限ります。メリットは傷が小さく済むこと局所麻酔でも可能であることかと思います。できる限り麻酔をかけたくない場合、局所麻酔で切除して病理検査の結果、良性ならOK、経過観察でき、悪性と分かれば拡大切除の細かい相談が可能になります。個人的には局所麻酔でできる場合も多いため比較的よく行います。
②部分切除はしこりがある乳腺のみ切除します。
③領域とは血管やリンパ管といわれる分布域によって、第1-3乳腺もしくは第3‐5乳腺をつなげて切除する方法です。悪性の場合でもがんの進行具合により根治可能です
④、⑤は名前の通り片側、もしくは両側すべて切除します。これらは悪性の場合やしこりが多発している場合に適応になります。ネコちゃんは特に悪性が多いため早期に積極的に摘出するほうが予後はいいとされるため、前向きに考えられるといいと思います。
デメリットとしては傷口はかなり広範囲になるため負担は大きいことです。
予防
乳がんにならないためにどうしたらいいか、予防方法は避妊手術(卵巣摘出、卵巣子宮摘出)になります。ワンちゃんでは初回の発情が来る前に避妊手術を行うことで発生率が0.05%になるという報告があるため、予防効果としては大きいかと思います。様々な報告はありますが、すでに2歳以上でも手術し女性ホルモンが出なくなることで効果の報告もあるため前向きに考えるといいかもしれません。
ネコちゃんもワンちゃんほどではありませんが発生リスクが低減するとされています。
1歳までの避妊手術で約90%発生リスクが低減するという報告があるため、悪性の確率が高いことも鑑みると避妊手術は重要になってきます。
まとめ
乳がんは典型的な早期発見、早期摘出のがんと思います。小さければ小さいほど根治につながるため小さいうちにまず相談できるといいと思います。当院の場合、局所麻酔での処置も可能な場合があるため、麻酔をかけたくない等あればご相談いただき最良な治療プランを一緒に立てていければと思います。
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